2022年5月。私は会社の将来に対して、これまでにない危機感を覚え始めていた。
同時に、今までくすぶっていた『退職』という文字が、静かに確実に胸の内で膨らんでいく。
この会社には、24歳で中途入社した。
以来、「会社を良くしたい」・「家族に自慢できる会社にしたい」という思いから、がむしゃらに働いてきた。
こんなパワハラが染みついた会社でも、がんばれば変えられる。
そう信じていたし、パワハラ上司にいびられ現場で泣いている担当者たちも救いたかった。
実際、経営者が変わったタイミングや、お客様からの指導で”改善プロジェクト”が立ち上がるなど、良くなるチャンスは何度もあった。
しかし、口先だけで全く動かないパワハラ上司たち。それを継承する子分たちが優遇され、良くしようとする者を排除する。
そう、この会社は自ら自滅への道を選んでいった。
ブラックな風土は簡単には変わらない。孤軍奮闘で会社を立て直せるほど現実は甘くない。もはや、会社建て直しやV字回復など、ドラマの中の話だ。
私は、長年勤めたこの組織に、明るい未来がないことを確信し始めていた。
会社の実態に気づく
この会社に入社して30年以上。
品質検査、開発、製造、品質保証とさまざまな部門を経験し、最終的には監査担当として経営にも関わるようになった。
しかし、経営に足を踏み入れたことで、経営の闇に気づいてしまった。
- 財務状況の悪化:4期連続の赤字で、株主配当は見送りつづき。財務は壊滅的な状況。
- 採用の問題:求人はハローワークに出して終わり。丸投げで応募が来るのを待ってるだけ。
- パワハラ文化の継承:能力なんて関係ない。パワハラを受けつぐ者を高い評価で出世させる。
このままでは1年後には資金ショートする可能性があるというのに、全くもって危機感のない経営陣。
こんな実態を目の当たりにして、虚無感というか椅子から立ち上がれないほど脱力してる自分がいた。
自分は、「会社を良くしよう」・「家族に自慢できる会社にしよう」と努力してきたつもりだった。
しかし、この組織は経営層から腐っていた。
下の者がいくら頑張っても、この根本的な問題を解決できずに時間だけが過ぎていく。
やるせなさと焦りが募っていった。
「このままでいいのか?」という葛藤
そんなある日、ふと気づいた。
「このまま定年して、ここで働き続けるのか?」
55歳を迎え、60歳、65歳と年を重ねた自分の姿を想像してみる。
しかし、そこに見えるのは、ただ惰性で働き続ける暗い未来だった。
- 会社の業績が回復する見込みはない。
- 給与も下がり続け、ボーナスも期待できない。
- 職場環境も改善される兆しすらない。
一方で、「定年までいれば安泰」という時代はとうに終わっている。
人生100年時代といわれる中、定年後もまだまだ働けるが、この会社で嘱託として勤め続けることに希望が持てない。
「俺は、このままでいいのか?」
そう何度も、自問する日々が続いた。
知人の何気ない一言が…
悩み続けてた私は、信頼している知人女性に相談をしてみた。
「会社の未来が見えなくて、どうしたらいいかわからない。」
そのとき、彼女が放った一言が、私の心を大きく揺るがした。
「早期退職して起業したら?」
「え?」
思わず聞き返した。
「起業? 自分が?」
これまでの人生で考えたこともなかった選択肢に、脳がついていかなかった。
「会社に依存しなくても、今までの経験を活かせることはあると思うよ。」
彼女はさらりと言った。
そして、その言葉が頭から離れなくなった。
私は今まで、会社という枠の中でしか生きてこなかった。自分のスキルや経験を活かして何かをするという発想すらなかったのだ。
完全なる勤め人。
でも、このまま会社にしがみついて、人生を終えていいのだろうか?
決断できない自分…
「退職して起業…?」
頭の中で何度もその言葉を反芻する。しかし、すぐに現実的な問題が浮かんできた。
- 何をすればいいのかわからない
- 起業の知識がゼロ
- 安定した収入を捨てる怖さ
今まで会社に守られて生きてきた自分が、果たして外の世界でやっていけるのか?
しかし、この環境で働き続ける気もない。
「どうする…?」・「何をすればいい…?」
会議中も頭の中は退職のことでいっぱいだった
「そうか!まずはネットで検索しよう!」
すぐに検索をし出したものの、目につくのは「アルバイト」や「ボランティア」の情報ばかり。
「これじゃない…!」
何かが違う。もっと別の選択肢があるはずなのに、見つけられない。自分の視野の狭さに呆れ、自己嫌悪に陥る。
結局、何をすればいいのか分からないまま、日々は過ぎていった。
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次回予告:「外の世界を知ろうとするが…」
この葛藤の中で、私はある一冊の本と出会う。
そこには「50代、独立、早期退職」というキーワードが並んでいた。それを読んだ瞬間、「これだ!」と感じた。
次回の記事では、退職に向けて一歩を踏み出すきっかけとなった出来事を書いていきます。
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